性別違和(性同一性障害)とは
「肉体的には完全に正常で、自分の肉体が男女どちらの性に属しているかはっきり認知している一方、精神的には自分が別の性に属していると確信している状態」と定義されています。別の言葉でかんたんに表現すると、肉体も精神も正常であるが、肉体の性と精神の性が一致しない状態ともいえます。
最近の世界的な変化には、目を見張るものがあります。
2013年アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)で、GID(性同一性障害)(※1)からGD(性別違和)(※2)と名称が変わりましたので、当院でも性別違和(GD)と呼ぶようにしています。DSM-Ⅳでは、精神疾患ととらえられていましたが、DSM-5からは、病気と見なされなくなったのが大きな特徴です。
2014年WHOは、法律上の性別変更に際して、性腺除去を強要してはならないとする声明を発表しました。日本の「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(2004年)と正反対で、あっ!と驚く内容です。
2018年6月WHOは、国際疾病分類(ICD-11)でも、性同一性障害(GID)を精神疾患から外し、Gender Incongruence(性別不適合)と名称変更し、Conditions related to sexual health
(性の健康に関する状態)というカテゴリーに分類しました。この中には、ED(勃起不全)なども分類されています。
「脱病理化」とも言われますが、性的マイノリテイーの人達が、病人・障害者から、普通の人達と同じに変わってきているという事です。
2023年10月、日本の最高裁判所で、性別変更にあたり性腺除去を求める現在の法律を憲法違反とする判断が示されました。これを受けて、FTMでは子宮・卵巣を温存したままで性別変更が認められるケースが出るようになりました。
※1 GID:Gender Identity Disorder
※2 GD:Gender Dysphoria
GI:Gender Incongruence
多くの問題点
性別違和感に悩む人達は、当然の事として自分の精神の性に従って人生を送りたいと考えています。
このため、たとえば男から女になりたい場合は、服装や髪型など外見を女性風に変えるだけでなく、体も女に近づくように女性ホルモンの投与を受けたり、最終的には外科的手術を受けたいと考えている人が少なくありません。
しかし、大人になって途中から自分の性を変更しようとすると、医学的な問題点のほかに、たとえば、(1)名前を女性または男性名に変更する(2)戸籍上の性を男から女、または女から男に変更する(3)肉体的には同性となる男性または女性同士の恋愛や同棲・正式な結婚生活を希望するなど、現在の社会習慣や法律制度と対立が避けられない事態に直面するケースも今までは少なくありませんでした。
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律
しかし、関係者の努力により、2004年7月に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が施行されました。
-
戸籍上の改名は、医師の診断書があれば可能になりました
医師の診断書だけで家庭裁判所での改名が許可されるようになりました。
従来は、郵便物など、長年通称を使用してきた証明が改名の必須条件とされていましたが、診断書だけで改名がスムーズにできるようになり、当院受診中の方でも第一号の改名許可者が2005年に現れました。
診断書をご希望の方は、遠慮なくお申し出ください。
-
戸籍上の性別の変更には、制約があります
最近までは、成人で、結婚していない、子供がいないなどの制約があり、すでに結婚して子供のある人には、性別の変更が認められていませんでした。しかし、実際には、性同一性障害でも結婚して配偶者・子供のある人は非常に多いため問題となっていました。
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律では、施行後3年(2007年)をめどに法律の内容を見直すことになっていました。ようやく2008年、結婚して子供がある場合でも、子供が成人していれば性別変更が可能になりました。
-
結婚して子供を持った時は?
2013年12月最高裁は、「性同一性障害」で戸籍の性別を変えた夫が、第三者から精子の提供を受けて妻が出産した子供を、法律上の夫婦の子と認める判決を出しました。
「妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定する」という民法が適用されるとの初判断を示した画期的なものです。
子供の出生届を役場に提出に行ったところ、戸籍の性別変更履歴があることから実子と認められず、「養子縁組」をしないとダメだと言われたことが発端でした。
無精子症の夫を持つ妻が、AID(夫以外の男性から精子提供を受けて行う人工授精)で妊娠した場合は実子として認められているのに差別ではないか?という声が上がったためです。
実際、性別適合手術を受け戸籍を変更して女から男に変わったことを妻側の両親・家族に告げずに結婚しているカップルが大勢います。こうした人たちにとって、自分達のプライバシーを侵害されるかもしれない「養子縁組」という話は、到底受け入れがたいことでした。
この最高裁判決を受け、法務省は、出生届の受付方針を大きく転換することになりました。